鬼が棲む麗しの稜線「天念寺」
天念寺は六郷満山にある修行の寺「中山本寺」に属する寺院の中でも、特に著名な寺院の1つです。その本来の境内は、長岩屋の谷全体に及んでおり、かつては「住僧」と呼ばれる身分の者しか住まうことができませんでした。
また、天念寺耶馬と呼ばれる寺院後背の岩峰が満山中でも特に険しく、天空にかかる無明橋が著名です。現在では、地名として残る「長岩屋」は天念寺の元々の名で、講堂と身濯神社は横長20mほどの岩屋の中に展開しています。
今回はNOBODY KNOWS天念寺公演を記念して、天念寺の寺院紹介の記事を掲載します。
天念寺講堂
天念寺境内
鬼と炎舞う天念寺修正鬼会
天念寺において、特に有名なのは「修正鬼会」。旧暦の正月七日に執り行われる本行事は、参拝者の無病息災・五穀豊穣などを祈願するものです。元々は修正会のように天下泰平・寺門繁栄などを祈願する行事であったようですが、江戸時代の頃には寺院・村人の主導で行われるようになり、様々な願いを叶えるようになったと考えられています。
修正鬼会で登場する鬼は、いわゆる悪鬼ではなく、人々に幸せを届ける存在です。天念寺では赤鬼は【災払鬼】と呼ばれる愛染明王の化身、黒鬼は【荒鬼】と呼ばれる不動明王の化身であるとされています。たいまつで尻や背を打たれることも、参拝者の体から悪い気を追い払うような意味合いで「御加持」と呼ばれています。
令和元年11月30日には、NOBODY KNOWS天念寺公演で鬼走りの部分を中心に再現されます。旧暦の正月七日のみに行われる伝統行事「天念寺修正鬼会」を、今回のようにイベントで特別に実演してもらう機会は初めてです。狂言、邦楽、そして修正鬼会―― ニッポンの鬼の正体に迫る一夜限り公演になりますので、是非お申込ください。
修正鬼会(火合わせ)
修正鬼会(御加持)
荒々しい自然と向き合う 御山と磨崖仏
天台宗の寺院群である六郷満山において、荒々しい自然の中に身を置くことで悟りを開こうという考え方がありました。そのための修行の1つに「峯入り」というものがあります。六郷満山を開いた「仁聞」の修行の足跡をたどる峯道を歩き、その追体験をする修業で、江戸時代の六郷満山において峯入りを満行していない僧侶は一人前と認められていなかったようです。
その峯入りの中で最も険しいエリアが「天念寺耶馬」。鋭く聳える岩峰に10もの岩屋(霊場)が集まっており、岩場を伝いながらそれらを巡る必要があります。尾根上には無明橋と呼ばれる幅1.2mほどのアーチ橋がかけられ、心に邪があればたちまちに落ちてしまうという伝承があります。この良好な修行場には六郷満山の僧侶にとどまらず、修験者なども集ったと言われています。
また、講堂の正面にある磨崖仏「川中不動」は、高さ4mほどの大きな磨崖仏で、長岩屋川の中の大岩に彫られています。暴れ川であった長岩屋川を鎮めるために彫られたという伝承があります。この磨崖仏の前には、かつて護摩堂があったと記録に残っています。僧侶が磨崖仏と向き合う護摩堂は、天念寺にしかない特別な空間であったと思われます。
天念寺耶馬
無明橋
川中不動
昭和初期まで残っていた護摩堂
修正鬼会・無明橋を体感できる 鬼会の里歴史資料館
天念寺の末坊「円重坊」があったと思われる場所の近くに、鬼会の里歴史資料館(通称:鬼会の里)があります。鬼会の里では、長岩屋地区や天念寺にまつわる文化財の展示を行っています。境内と一緒に見学するとより理解も深まり、より天念寺・修正鬼会を楽しめます。
展示物の中でも、臨場感が自慢の「修正鬼会シアター」「VR無明橋」がオススメです。修正鬼会シアターでは、立体的な音響設備から実際に修正鬼会に参加しているかのような感覚になることができます。VR無明橋には、景色を高画質で楽しむ映像と、六郷満山の僧侶と一緒に橋を渡る映像の2種類があり、修行の場・無明橋を体感することができます。また、実物大の渡れる無明橋のレプリカもあり、イベント時にその傾斜等を感じることもできます。
鬼会の里歴史資料館
VR無明橋