日本遺産『鬼が仏になった里「くにさき」』で取り組んできた事業について振り返る一里塚(マイルストーン)として、2018-2020年の3年間の事業成果、認定時に立てた3年間の計画(地域活性化計画)の達成度などについてご報告いたします。
日本遺産くにさきの目指す3つのVision(ヴィジョン)
日本遺産『鬼が仏になった里「くにさき」』では、3つのVisionの達成に向けた取組を実施してきました。ここでのVisionは認定から10~20年後の未来を想定しています。
それぞれのVisionを達成するためには、様々な関連業務が存在しています。Visionの達成までは程遠いですが、日本遺産くにさきはそれぞれのVisionについての第1歩を踏み出しました。
Vision1:日本遺産を活用した着地型観光の受入態勢が確立しており、各寺院や拠点で「くにさきの鬼」の文化に触れることができる。
Vision2:里に幸せを届ける「くにさきの鬼」が国内に広く知られており、海外には「ONI」という言葉が羽ばたいている。
Vision3:鬼という素材を活用し、豊後高田市と国東市、民間と行政が助け合い、くにさきが持続可能な社会として、未来に引き継がれる準備ができている。
※着地型観光:地域が独自に開発した様々な体験プログラムに対価を支払う観光形態のこと。文化資源や自然資源をうまく活用して、質の高い体験を提供することで、地域観光のブランド力を高めたり、地域コミュニティを活性化したりする効果があるとされています。
3年間の事業内
日本遺産くにさきが認定された2018年度から2020年度までの事業の概要を紹介いたします。事業は、「①組織・人材育成」「②調査研究」「③施設整備」「④情報発信・普及啓発」「⑤収益化・自走化」の5項目に分かれています。
①組織・人材育成
豊後高田市・国東市では、『鬼が仏になった里「くにさき」』が日本遺産に認定された直後、2018年7月に六郷満山日本遺産推進協議会(豊後高田市・国東市内の官民連携の協議会)を結成し、日本遺産くにさきを活用した様々な取組を行う組織・体制づくりを行いました。
豊後高田市・国東市の文化財部局・観光部局が連携しながら事業にあたり、2021年3月現在までで、その連絡会議はおよそ月に1回のペース、計36回開催しました。
官民連携のグループ会議については、「デザイン部門」「ブランディング部門」「ガイド部門」を結成しましたが、民間でのリーダー人材は見いだせていない状況です。
着地型観光を実現するためのガイド育成については、ロングトレイル・心臓ヨガをベースに構想中で、受入体制の充実とともに準備をはじめています。
次の事業としては、着地型観光の具体的なメニューを実走させるためのシステム整備及びガイド・体験インストラクターの育成を行います。
日本遺産認定式(2018.05.24)
六郷満山日本遺産推進協議会総会
峰入り体験のモニターツアー
英語ガイド育成研修(豊の国千年ロマン観光圏との連携)
②調査研究
豊後高田市・国東市の教育委員会では、国東半島の文化財をよりブラッシュアップするための調査を実施しています。
近年の文化庁による指定等を列挙すると、国指定名勝「天念寺耶馬及び無動寺耶馬(2017年)」、国指定名勝「中山仙境(夷谷)(2018年)」、国指定名勝「文殊耶馬(2018年)」、歴史の道百選「六郷満山の峯入りの道(2019年)」、国登録名勝「真玉海岸(2020年答申)」など、名勝・岩峰群に関する指定が増えており、美しい景観やロングトレイルを活かす契機となっています。
また、豊後高田市では「国東半島田染名勝調査(2018~2019)」を、国東市では「両子山名勝地調査(2019)」を実施し、国東半島の風致景観の特性について調査を実施しました。
【国指定名勝】天念寺耶馬
【国指定名勝】中山仙境(夷谷)
【国指定名勝】文殊耶馬
【国登録名勝答申】真玉海岸
また、国東半島の観光・インバウンド施策の課題等について調査を行い、観光面での戦略立案も行いました。国東半島は自然資源が多いだけではなく、六郷満山などの文化資源にも秀でており、その両方を活用した心身ともにリフレッシュできる「リトリート(休息)ツーリズム」を構想するに至りました。
別府大学の中山ゼミとの協働で、日本遺産くにさきや、中山仙境(夷谷)を盛り上げるプロジェクトも立ち上げました。
リトリートツーリズムのモニターツアー(ランドネ企画)
中山ゼミのゼミ生と夷地区住民の共同活動
別府大学生がデザインした夷谷オリジナルタオル
③施設整備
豊後高田市では鬼会の里歴史資料館を、国東市では国東市歴史体験学習館(弥生のムラ)に日本遺産コーナーを開設し、日本遺産くにさきを巡る際の拠点としています。
鬼会の里歴史資料館では、無明橋を渡る体験ができるVRと無明橋の実物大レプリカを配置し、六郷満山についてより深く体験できる設備としています。天念寺・鬼会の里歴史資料館を重点的にPRした結果、2,200人程度だった年間入場者は2019年には8,171人まで増加しました。
また、日本最大の登山アプリであるYAMAPとの連携事業で、YAMAPアプリ上に峯入りルートの位置情報を落とし、迷わず安全に国東半島峯道ロングトレイルが巡れるようになった他、多言語(日英仏中韓)音声解説を聞くことができるようになりました。
VR無明橋の体験(鬼会の里歴史資料館)
天念寺耶馬無明橋の実物大レプリカ(鬼会の里歴史資料館)
日本遺産コーナー(国東市歴史体験学習館)
YAMAPアプリ上の「六郷満山」の地図
④情報発信・普及啓発
日本遺産くにさきの特設ホームページ、SNS(Facebook、Twitter、Instagram)を開設し、定期的に更新してきました。より詳細に国東半島の魅力を伝える「撮ってみた!くにさき半島」「泊まってみた!くにさき半島」や、両市にまたがる設備の紹介(道の駅・里の駅など)などは特に閲覧数が多いシリーズとなりました。多言語ではインバウンド向けの旅行サイトであるjapan-guideへの掲載を、大分県の3つの日本遺産で連携して実施しました。
映像作成については、BS-TBSの『日本遺産』『彩 日本遺産』の制作委託を行い、国東半島の魅力を4Kで映像化したほか、Eテレの人気番組「びじゅチューン!」には、熊野磨崖仏をモチーフにした作品《お互い擬態》が公開され、OPAMでの企画展などにも繋がりました。
日本遺産くにさきの情報発信はデザインに力点を置き、文化資源のブランディング・ベースアップに取り組みました。日本遺産くにさきのロゴマーク、国東半島の11の小エリア「谷」をブランディングするエンブレムを作成し、谷毎の入り口に看板を設置しました。
県内の美術系の学生を集めて実施した「くにさきガチャガチャProject」は、学生が「くにさき」について語ることができるようになる過程もあわせて紹介し、エリアの文化資源のPRにも繋がる取組となりました。
日本遺産くにさき特設ホームページ
日本遺産公式Facebookページ
撮ってみた!くにさき半島で撮影した「田染荘の夕日」
Eテレの番組「びじゅチューン!」で放送された《お互い擬態》
谷のエンブレム一覧
くにさきガチャガチャ制作ワークショップの様子
くにさきガチャガチャの作品
普及啓発の事業の目玉としてストーリーブックを制作しました。小中学生にも日本遺産の世界観が分かるよう絵本+図鑑形式のストーリーブック『くにさきの鬼』を多言語(日英仏)で制作しました。PDFで配布するほか、販売用に増刷も行っています。
地域住民への普及啓発として認定記念シンポジウム(2018年)を、域外への発信も含めたシンポジウム「鬼祭り」(2019年)を開催し、個別には小中学校・幼稚園・大学での出前講座(計18回)、一般向けの講座(計23回)を開催し、日本遺産くにさきの魅力を伝えました。日本博関連事業として、日本遺産構成文化財を舞台にした伝統芸能の公演事業「NobodyKnows」に天念寺講堂が選ばれ、インバウンドも招待しつつ、和楽器や狂言と修正鬼会に登場する鬼の表現の比較を楽しむ有意義な公演となった(2019年)。
更に地域住民が手軽に日本遺産の取組に寄附できる"おにぎりクラウドファンディング"を立ち上げ、2018年にはその普及のための「おにぎりコンテスト」を開催しました。現在、域内の21店舗に参画していただいており、日本遺産くにさきは応援するキッカケづくりができています。
ストーリーブック「くにさきの鬼」
学校への出前講座
一般向けの講座:日本遺産を巡るバスツアー(豊後高田市文化財室実施)
コンテストで握られた”おに”ぎり
日本遺産認定記念シンポジウム(2018年)
発信型シンポジウム「鬼祭り」(2019年)
NobodyKnowsくにさき公演の演出
NobodyKnowsでは、狂言と修正鬼会のコラボレーションとなった
⑤収益化・自走化
日本遺産事業は、3年間の補助事業を足掛かりとして、収益化・自走化を目指した取組が求められています。日本遺産くにさきでは、「A旅行商品企画・ガイド関連」「B物販・ロイヤリティ」「Cクラウドファンディングプロジェクト運営」「D寄附・募金」の4つの方法で収益化を進める準備をしています。
Aの旅行商品造成・ガイド関連はまだ実施できておりませんが、国東市観光協会等への企画立案などを行うことから始めます。
Bの物販・ロイヤリティは、文化財グッズ(クリアファイル、御朱印帳、ストーリーブック、夷谷タオル、ラバーコースター、文化財Tシャツ)を開発し、ネットショップ「KUNISAKI PEAKS OniLINE」や観光地での販売委託のネットワークを使い、販売に取り組んでいます。また、ロゴマークの使用等に伴うロイヤリティ(収益の一部をくにさきの文化財活用に使用する文言を記載)の取得などの手法も今後取り入れようと考えています。
Cのクラウドファンディングプロジェクト運営については、日本遺産くにさき直営のプロジェクトと、地域の文化資源を使った取組のプロジェクト補助を行っています。先述のおにぎりクラウドファンディングも実施しています。
Dの寄附・募金は、募金箱の設置、ロゴマークやエンブレム使用に際するロイヤリティなどによる収益があります。企業パートナーなどの見出しが今後の課題となっています。
日本遺産クリアファイル3枚セット
夷谷オリジナルデザインタオル
クリアカバー付きオリジナル御朱印帳
ストーリーブック「くにさきの鬼」
ラバーコースター(現在4種)
真玉海岸リレーデザインTシャツ(design.1)
真玉海岸リレーデザインTシャツ(design.2)
真玉海岸リレーデザインTシャツ(design.3)
県指定昇格記念「まちあげ おモチはかぶるモノです。」Tシャツ
宇佐神宮参道・是恒商店のPOP UPショップ
ロゴマークの使用例(同パッケージの宇佐飴の売上の一部を寄付いただいています)
過去の総会資料(実績部分)
定量的成果と課題
①入込客数
六郷満山寺院の入込客数を指標として計測しています。2018年は六郷満山開山1300年が盛り上がり、各寺院に詣でる観光客が大幅に増えました。2019年はその反動や各地での災害もあり、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で入込観光客数は減となりました。
鬼会の里歴史資料館の入館者数は、展示のテコ入れ、日本遺産センターとしてのプロモーションの効果があり、高い反応を得ることができました。
◆六郷満山寺院(富貴寺・真木大堂・熊野磨崖仏・長安寺・天念寺・両子寺・文殊仙寺・瑠璃光寺の合計)
〔目標〕2023年:309,400 人
〔2017 基準値〕 238,000 人
〔2018 実績値 (目標値)〕 316,232 人(249,900人)〔前年比〕+32.8%
〔2019 実績値 (目標値)〕 241,575 人 (261,800人)〔前年比〕-23.7%
〔2020 実績値 (目標値)〕 164,506 人(274,900人)〔前年比〕-31.9%
◆鬼会の里歴史資料館
〔目標〕2023年:5,000 人
〔2017 基準値〕 2,200 人
〔2018 実績値 (目標値)〕7,076人 (2,500人)〔前年比〕+ 221.6%
〔2019 実績値 (目標値)〕8,171人 (3,000人)〔前年比〕+15.4%
〔2020 実績値 (目標値)〕3,153人(3,500人)〔前年比〕-61.4%
②ホームぺージ閲覧数等
2019年2月に立ち上げた日本遺産くにさきの特設ホームページを活用し、誘客や物販につなげることが今後重要になってきます。地道に更新しながら、新しい切り口の発信を目指していく必要があります。
特設ホームページ(ONIE.JP)の閲覧数は順調に伸びてきているため、目標値を上方修正しました。
◆特設ホームページ(ONIE.JP)の閲覧数
〔目標値〕2023年度 150,000view 〔当初の目標〕2023年度:30,000view
〔2018年度 実績値(目標値)〕 9,842 view(3,000 PV) ※2 /8~
〔2019年度 実績値(目標値)〕 43,304 view(30,000 PV)
〔2020年度 実績値(目標値)〕 68,553view(30,000PV)
◆公式SNS(Facebook+Twitter+Instagram)のファン数
〔2018年度 実績値〕330+9+0=339FANs
〔2019年度 実績値〕627+51+253=931FANs
〔2020年度 実績値〕815+125+405=1,345FANs
③協議会の収益
日本遺産の取組は、その一部を収益化して、自走的な取組を推進することが必要とされています。今までは自主製品(文化財グッズ)の販売を中心に収益事業を実施してきましたが、今後は特産品の販売や、旅行商品企画等に関する収益化を目指す必要があります。
物販事業が順調に伸びてきているため、目標値を上方修正しました。
◆日本遺産くにさきの収入
〔目標値〕2023年度:6,000,000円 〔当初の目標〕2023年度:1,580,000円
〔2018年度 実績値(目標値)〕0円(900,000円)
〔2019年度 実績値(目標値)〕約950,000円(990,000円)
〔2020年度 実績値(目標値)〕約1,200,000円(1,090,000円)
◆国東半島リトリートツーリズムの体験プログラム購入者数
〔目標値〕2023年:500人/年
〔2020 実績値〕0人/年